大和の冒険 第二十三話 高藤物語

【今昔物語集外伝 大和の冒険 第二十三話 高藤物語】をYouTubeにアップしました。

YouTubeへアップしている内容は、YouTubeのガイドラインに沿った作風にするため若干表面を和らげています。

原作は動画の下に公開しておりますのでどうぞご覧ください。

また、紙芝居の舞台イベントなども受け付けています。一人でも多くの方に今昔物語を知って頂けたら幸いです。

第二十三話 高藤物語 原作

今昔物語集外伝 大和の冒険

今は昔、平安京の都に藤原良門様という高貴な貴族がおりました。

その良門様には当年16才になる高藤様という聡明で凛々しい御子がおりました。

少年大和は高藤様のお遊び相手というか、お傍衆という形で、藤原家で暮らしておりました。

ある朝、高藤様が

「おーいみんな、明日は鷹狩りに行こうよ」

大和は飛び上がる程嬉しかったのです。広い山野を鷹の動きと合わせて走り回るのは本当に楽しいのです。

翌朝早く、高藤様は父君の鷹狩の衣装をお借りして馬に乗り、幾人かの家来を連れて出かけて行きました。

狩場では、鷹匠の笛を合図に、鷹が空を舞い、勢子たちが追い集めてきた獲物に向かって一直線に攻撃する姿は勇猛そのものです。

自分より大きな、鶴やキツネを射止めて、格闘しているところへ勢子たちが、寄ってたかって獲物をとり押さえています。

高藤様は得意満面だし、大和も大きな野ウサギを捕まえました。

皆が夢中になっている昼過ぎに、一天にわかにかき曇り、ヒューと冷たい風が吹いて来るや否や、季節外れの雷と共にみぞれ交じりの大雨が襲いかかってきました。

誰もかれもが一目散に、蜘蛛の子を散らすように逃げて行きます。

鷹は空高く舞い上がり雲の向うへと飛び去ってしまいました。

高藤様はとにかく馬を飛ばして、雨宿りできる場所を探します。馬は自分の行きたい方へ走りぬけて行くのです。

大和と馬飼の男が息を切らして必死に後を追いかけます。

たったったっ!山の中に一軒の家を見つけて、高藤様は馬に乗ったままで門からズイと庭に入り込みました。雨は一向に止む気配もありません。高藤様が馬から降りたところへ大和たちが追い付きました。

家の中から中年の男が出て来て、

「これは、この雨の中をどちらさまですか」

「あいや、こちらは藤原の良門様の御子でございます。鷹狩で突然の嵐に会いまして」

「やや、それはそれは、ささ、どうぞむさくるしゅうはございますがどうかお入り下され、お召し物も乾かして差し上げましょうぞ」

小ざっぱりとした座敷に通されて乾いた着物も与えられ、田舎にしてはよく出来た料理も出されました。空腹のせいか、美味しく食べておりました。

とその時、襖が開いて、薄いピンクの着物に赤い袴を付けた、とりわけ美しい乙女が料理を捧げて恥ずかしそうに入ってきました。

年の頃は14才ぐらいでしょうか、彼女を一目見た高藤様は、ハッとした様に箸を置いて、まじまじと見つめています。このような美しい女性を見たことがない。まばたきも忘れて見つめ続けています。乙女は料理を置くと、次には飲み物を運んできました。そして恥ずかしそうに出て行ってしまいました。

夜、眠る時になって、高藤様は馬飼いの男に声を掛けます。

「私は、こんな田舎で、とても恐ろしくて眠ることができないよ。さっきのあの娘を呼んでおくれ」

さっきの乙女が恐る恐るやってきました。

屏風の向う側では、宿直をするはずの大和と馬飼いの男は、昼間の疲れでグウグウと眠りこけています。

高藤様は美しい乙女を相手に

「もちょっとこちらへおいで。私はお前の事を生涯大切にまもってあげるよ」

とばかり、先の先のことまで約束をして一睡もせずに語り明かしました。

翌朝、狩り装束に身を固めた高藤様は、

「私は必ずそなたを迎えに来るからね。そなたは美しいから親が進める縁談もあろうが、私よりほかの男に嫁いではいけないよ。これは私の守り刀だ。形見に残していくから、私だと思って迎えに来るまでまっていておくれ」

乙女はあふれる涙で

「あい」 という返事も声にならず、ただ頷くばかりの別れでした。

高藤様が帰路に就くとどこからか家来たちも集まってきて屋敷に帰り着きました。ところが父親の良門様は大変なご立腹

「夕べ、鳥は帰ってきたが、そこもとたちは何の音沙汰もない。どれほど心配した事か!今探しにやるところだったぞ。もう絶対に鷹狩は許さない」

その後馬飼いの男が暇を取って田舎へ帰ってしまったので、あの家がどこにあるか解りません。いくら会いたくても道も分からず、文を届ける先も知らず、口をきかない大和を相手に涙をこぼすばかりでした。その上間もなく父親の良門様が他界して叔父の藤原良房様のお屋敷に引き取られたのでございます。月日が流れて、高藤様は眉目秀麗で、頭脳明晰、心根もやさしいので、末は必ず大臣になろうと期待される青年公達になりました。しかし彼の心はあの日別れた乙女を思うばかりでした。と、ある日突然あの時の馬飼いがやってきました。

「やあ、若君、又京都で就職をしようと思いましてね。どこへ行かれたか探しましたよ」

「おう!あのときの。お前あの泊まった家を覚えているか?」

「もちろんでさあ」

「そうか、じゃ、これから出かけよう」

「こんな時間から?」

「そうだ今すぐだ!馬だ、馬を曳け!」

三人は馬に乗って飛ぶように山科の方面へ走りだした。

カッカッカッ

「若様!あれです。あのお屋敷です」

「よし!」

その家に着くと、家の主は大喜びで座敷に通します。すると屏風の蔭にあの美しかった乙女が、立派に大人びて、一層素晴らしい女性になっておりました。傍にとても美しい4才ぐらいの女の子が遊んでいます。

「おや、この小さな姫はだれぞ?」

泣きくずれて返事もできないので、主を呼んで聞きました。

「若君様、娘は貴方様がお泊りになられたあの時は、何も知らない14才でございました。以後どなたにも一目も合わせたことがございませんが、あなた様がお帰りになりました後、娘は懐妊しまして月日が満ちてこの姫を産みました。この小さな姫は若君様の御子でござりまする」

「ムムッ、左様であったか、いや、見れば見るほど私とよく似ておる。すまぬ!苦労を掛けたのう。私一人が辛かったと思っていたのに」

手を取り合って涙にくれる二人でした。

翌日、一旦家に帰った高藤様は、住んでいた叔父の家を出て、元の自分の屋敷を綺麗に整えました。そして粗末な牛車を用意して、迎えに来ました。姫と母親、小さな姫を密かに京都へ運びました。

姫たちを乗せた粗末な牛車は、知人の橘家のお屋敷に吸い込まれるように入って行きました。

橘家では早速姫を養女として入籍しました。そして藤原家と橘家の間で晴れて婚約が整い、姫は藤原家にお嫁入りをしたのです。親子3人が幸せに暮らすことになりました。ちなみにこの小さな姫は大人になってから冷泉天皇の女御となり、そこで生まれた子供が醍醐天皇となるのでございます。

一方、少年大和は、幸せ色に包まれた高藤様を横目に見て、人知れず屋敷の裏からリンボーに乗って次の説話へと旅立っていくのでした。大和が遠ざかると、高藤様の脳裏から大和に関する記憶が一切消えてしまうのでした。

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