大和の冒険 第四話 ゼンショーニンとアジュ
【今昔物語集外伝 大和の冒険 第四話 ゼンショーニンとアジュ】をYouTubeにアップしました。
YouTubeへアップしている内容は、YouTubeのガイドラインに沿った作風にするため若干表面を和らげています。
原作は動画の下に公開しておりますのでどうぞご覧ください。
また、紙芝居の舞台イベントなども受け付けています。一人でも多くの方に今昔物語を知って頂けたら幸いです。

今は昔
インドに東城国と西城国という国がありました。
東城国のゼンショーニンという王子は、西城国にアジュという素晴らしい美人の姫がいると聞いて、
「よし、私は美しいアジュをお嫁さんに貰うため西城国へ行こう」
そう言って旅に出ました。20日も過ぎたので家来達には家に帰るようにすすめて、一人で西城国を目指して旅を続けました。

一方、西城国の美人のアジュ姫は、夜中に夢の中で尊い仏様がボーッと現れて、
「アジュよ、お前の夫となる東城国のゼンショーニン王子がお前を嫁にしたいとこちらに向かっている。あと三日すればゼンショーニン王子は、この西城国の城門の前にたどり着くから、迎えてあげなさい」
目が覚めたアジュは
「ゼンショーニン王子さまって一体どんな方かしら…。はやくお会いしたいわ」
まだ会わないうちから何となくゼンショーニン王子に恋をする気持ちになっていました。

やがて3日たったのでアジュ姫は門の外へ出てみました。
するとそこにはとても立派な王子様が立っているではありませんか。
「アジュ姫ですね。私は東城国のゼンショーニン王子です」
一目見た時から二人は運命的な出会いだったのでしょうか、強く魅かれ合いました。
「王子様、お待ちしていましたわ。どうぞ私の部屋へお入りください」 アジュ姫は誰にも内緒で王子を自分の部屋に入れて、1週間仲良く過ごしました。c

西城国の王様が気が付いて、
「姫の部屋に誰がいるのか」
と、言われて会わせますと、王様はゼンショーニン王子がとても凛々しく爽やかの好青年であることを認め、
「うん、私の娘にふさわしい王子だ。とても気に入ったぞ。3年経ったら、この城も宝物も全てお前に譲るから、姫を大切にしてくれ」
それを聞いた継母のお妃はすっかり怒ってしまいました。王様に見えないようにしながらご飯や料理をゼンショーニンには食べさせないのです。
アジュは継母に気を使いながらこっそりとゼンショーニンに食事を出すのです。それを見てかわいそうでなりません。

「私の国に帰れば宝物は山ほどあるから、それを持って来てアジュにプレゼントするよ。お母さんに気兼ねをしないで暮らせるようにね」
「あなた、私のおなかには赤ちゃんがいます。今この城を離れないで、赤ちゃんが生まれてからにしてください」
「大急ぎで行ってくるから生まれるまでには帰ってくるよ」
そういって出掛けたゼンショウニンでしたが、東城国に着くと父王が重い病気になって命が危ないというので看病に明け暮れているうちに時間が過ぎてしまいました。
やがてアジュは双子の赤ちゃんを産みました。

父王はアジュの双子の赤ちゃんをとても大切にしてくれましたが、継母のお妃の意地悪はだんだんひどくなるばかりです。
アジュはこっそりとお城を抜け出して、お米を五升ばかり袋に詰めて、一人の子供を背中におぶい、一人の子供の手を引いてゼンショーニンに会う旅に出掛けたのです。
「私はゼンショーニンに会うためにはどんな我慢もするわ。お前たちもお父さんに会いたいでしょうね」
途中でお米は食べ尽きて、来ているものを売ってお米に変えたりして、ムイの港の近くまで着ました。

ところが遂にアジュは重い病気にかかり倒れてしまったのです。
「お前たち、私の命は今日でおしまいです。二人で力を合わせてあのやぶの中で暮らしなさい。旅人が来たらお米を一合恵んで下さいと言って、もらったお米を食べて生きるのです。両親が誰かと聞かれたら『お父様は東城国のゼンショーニン、お母様は西城国のアジュです』と答えるのよ。」
そう言ってアジュは草むらの中で息を引き取ってしまいました。
二人の子供は動かない母にしがみついて泣き叫びましたが、やがて言われた通り、旅人から恵んでもらったお米を食べて暮らすようになりました。

一カ月が過ぎたころ、ゼンショウニンが沢山の宝物をもってアジュのもとへ帰ろうとやってきました。父王が無くなって葬式をすませて我が子の待つ西城国へと急ぐ旅でした。ムイの港に近い藪の中から二人の子供が出て来て、
「お米を一合恵んで下さい」
「おや、一合あげるよ。お前たちの両親はどうしたの?」
「お父様は東城国のゼンショーニン、お母様は西城国のアジュ。お母さーんあいたいよー」
「ええっ!それではお前たちは私の子供じゃないか。アジュはどうした」案内された草むらにはアジュの骨と洋服の切れ端が散らばっていました。ゼンショーニンは転げまわって泣き悲しみました。

一方、サーマと大和はあてもない旅を続けておりました。みすぼらしい家があったので水を一杯貰おうと声を掛けました。
「ごめんください。旅のものですが、お水を一杯頂けないでしょうか」
奥からかすかな気配がしたので二人は入って行きました。

何とそこには痩せた男とこどもが三人横になっています。
「どうしたのですか、ひどい病気ですね」
「いえ、病気ではないのです。何も食べていないので動けないのです」
「それは大変、この果物を召し上がってください。なぜ食べないのですか」
「あなたはどなたですか」
「滅びたカピラエ城にいた釈迦族の一人です」
「ああ、そういう尊いお方でしたか。では、私の話を聞いて下さい」
ゼンショーニンは今までのいきさつを全部話しました。アジュが自分を追って旅に出て死んだと聞いて、ゼンショーニンも子供を連れてアジュを追ってあの世に旅立つのだと長い話を締めくくり、三人はことりと息絶えてしまいました。

サーマと大和は、アジュとゼンショーニンと双子の子供の葬式をねんごろに行い、僧を呼んで四人が成仏できるようによく供養をしました。
そして東城国までやってきました。城のそばの民家の老婆に、
「あの城は東城国のゼンショーニンの城かな?」
「この間まではそうでした。ゼンショーニン様がアジュ様の後を追って亡くなられると聞いてお母様はショックで亡くなられ、ひどく乱暴な家来が家老様をやっつけて自分が王様だと名乗っています。税金は重いし、悪口を言うと牢屋に入れられるし、国民も、家来達も、前の王様に帰ってきてほしいと困り果てているのです」
「そうか…みんなが困っているのか…」

サーマは東城国に行って、竜王からもらった神剣をプレゼントしたいと申し込みました。慾張りの悪王は
「どれどれ、魔法の剣を見せろ」
手を出したところをサーマは神剣で脅かしながら悪王を踏みつけてしまいました。
「私は、ゼンショーニンの最期を看取って四人の葬式をやってきた。ゼンショーニンは最後まで国民のことを心配していたぞ。聞けばずいぶん悪い王で家来も国民も困っているというではないか。私はゼンショーニンに変わって王になり、国民を幸せにしたいがどうじゃ」
乱暴な悪王に困っていた家来たちはゼンショーニンの代わりならと、みんな喜んで拍手でサーマを新王に迎えることにしましたとさ。
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次はイッカク仙人です