大和の冒険 第三話 亀の恩返し
【今昔物語集外伝 大和の冒険 第二話 亀の恩返し】をYouTubeにアップしました。
YouTubeへアップしている内容は、YouTubeのガイドラインに沿った作風にするため若干表面を和らげています。
原作は動画の下に公開しておりますのでどうぞご覧ください。
また、紙芝居の舞台イベントなども受け付けています。一人でも多くの方に今昔物語を知って頂けたら幸いです。

今は昔、インドにサーマという青年がおりました。
彼はお釈迦様が生まれた釈迦族の出身ですが、故郷のカピラエ城が滅びてしまい、放浪の旅に出ています。旅の途中で、竜宮城で知り合った美しい竜の娘と恋をしました。人間世界で王様になってから必ず迎えに来ると約束をして、大和と共にさらに旅を続けております。とある川のほとりに来ると人盛りがして、何だろうと近寄ってみると、
「この亀は俺が捕まえたのだから俺のものだ。家で亀汁を作って子供に食わせるんだ」
「可哀想なので逃がしてやってください」
「駄目だよ、金をくれるなら別だが」

「お金なら支払いますが、今ここに持ち合わせがないので、家へ取りに来てください」
「おまえの家はどこだ?」
「20キロほど離れていますが・・」
「あー、何を言ってんだよ、とんでもない、ダメだ駄目だ」
大和がサーマをつついて。竜王に貰った宝の入った袋を示しますと、サーマは頷いて、夜光る石を取り出して、
「モシモシこれを役立てて下さい」
亀を持った男は、夜光る石を一目見て、亀を男に押し付けて、夜光る石をひったくると、走って行ってしまいました。助けた亀を川に逃がした男は、
「有難うございました。もし旅のお方、今夜は私どもにお泊り下さい」

その夜亀を助けた男が眠っていると、カサコソカサコソ音がします。
「モシモシ旦那様、今日は本当に有難うございました」
「お前は昨日の亀じゃないか」
「そうです。危険が迫っているのでお知らせに来ました。明日から、山奥で大雨が降って、あさってはこの辺りが大洪水になります。みんな流されて死んでしまうでしょう。明日中に大きな船を作って、それに乗って逃れて下さい」
言い終わると亀は消えてしまいました。

翌朝、サーマ達が出掛けようとすると、男が引き留めて、
「昨日の亀が知らせに来たのですが、明日は、この辺り一帯が大洪水に襲われますから危険です。今旅に出るととても危険です。船を作るので手伝ってもらえませんか」
「そうですか、危険を知らせてもらって有難う。それではおてつだいします」
そこで3人は大急ぎで材木を集めて船を作り始めました。 トントン、カンカン、トントン、カンカン、汗だくで大忙しです。

翌日、山のような水が押し寄せて来て、一帯が大洪水となりました。大和たちは船に乗っていて安全です。
例の亀が流されてきたので、
「おう、亀だ。早くこの船に乗りなさい」
次に大蛇が流されてきました。
「旦那様、蛇を助けて下さい」
「駄目だよ、怖くて」
「そんなことを言わないでつけて下さい」
しかたなく亀に言われて蛇を助けました。次に狐が流されてきたのでこれも助けました。今度は人間がおぼれています。
「旦那様、人間は助けてはいけません。ほっときなさい」

何言ってんだよ、人間同士が助けないなんてことはできないよう」助けられた人は、船の端で思い出したようにしくしくと泣いています。
やがて水が引いて新しく家も建てた時、男は、これから旅立つというサーマになにか土産をあげようと思って、大和を連れて探しに出掛けました。草むらからこの間助けた蛇が現れて、
「この間は有難うございました。どうぞこちらに来てください」
と、洞穴の中へ連れて行きます。すると、目がくらむほどの宝物が輝いています。
「この宝は全部私の物です。命を助けていただいたお礼にみんなさしあげます」
「ええっ!こんな宝物を?」

「どうぞ車に積んでお運びください」
亀を助けた男は大金持ちになりました。
そこへこの前に助けた男がお礼にやってきました。
「先日は本当に有難うございました。お礼にやって参りました。おや、このすごい宝物はどうしたのですか?」
「助けた蛇がくれたのだよ」
「そりゃすごい、私にも分けて下さい」
「いいだろう、少し持って行きなさい」
「少しじゃいやだよ。半分くれなきゃ」
「そりゃ駄目だよ、半分あげる理由がない」 「じゃあ、こんな少しじゃいらないから、どうなるかおぼえていろ!」

男は捨て台詞を言って去っていきました。
翌日、城から兵隊が来て亀を助けた男を、盗人の疑いで逮捕して牢屋に入れてしまいました。
「お前は墓に入って中のものを盗んできたと訴えられているぞ」
「いいえ、滅相もない、墓泥棒なんてそんなことは絶対にありません」
「嘘をつけ、お前の家にあるあの宝物の山が証拠だ」
牢屋では、男は無罪を主張しましたが、全く聞き入れてもらえず、鞭で叩かれたり、石を抱かされたり、ひどい攻め方をされて、男はボロボロになってしまいました。

夜、男が寝ていると、カサコソと音がして、例の亀が現れて、
「旦那様、どうしてこのようなことになったのですか、随分ひどい目に遇わされていますね」
「実は蛇に貰った宝物を、墓場荒らしをして盗んだと言い付けられて責められているのだ」
「だから言ったでしょ、人間は助けちゃいけないと。動物はうらぎらないけど、人間は裏切るものですよ。では何とかしますから」
亀が去った後でも男はひーひーと痛さで泣いておりました。

翌日、城の一角に一匹の狐が現れて、
「ケーン、ケーン」
と鳴きました。その声はお城の中でこだまして裏の森へ吸い込まれて行きます。それに応えるように、どこからかもう一匹、狐が現れました。その狐も、
「ケーンンコーン」
よく通る声で鳴きました。さあ、次々と狐が出て来て、塀の上、屋根の上、窓のそばに立って一斉に、
「コーンコーン、ケーンケーン!コーンコーン」
と喧しく泣き続けて人間の言葉も聞こえないほどになりました。

狐の鳴き声が響き渡ると王様のお姫様が、おなかが膨れる病気になって、痛くて泣きわめいています。
母親のお妃さまはどうしていいのかとオロオロとしています。
占い師に聞くと
「王様、大変悪いことが起こっています。罪のない者を牢屋に入れて苦しめているせいです」
「なに?罪のないものを罰したというのか、よし、もう一度調べなおそう」

王様は牢屋の罪人を次々と調べて、最後に亀を助けた男の話をすっかり聞いて、男が一生懸命に話したものですから、王様は、
「そうか、そういうことだったのか。それではお前は無罪だ。お前を訴えた男を牢屋にいれてやる」
彼は無罪だと言い渡されました。同時に姫の病気も治りました。
帰ってきた男が一部始終を話すのを聞いて、大和は
「どうして、人間よりも下等なはずの動物は裏切らないのに、人間は人間を裏切るということするのだろうか、何故亀がそれを見抜いていたのだろうか」
と不思議でなりませんでした。